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やがてわずかな照明が完全に落ちて、最初のバンドがぞろぞろとステージに出て来てスタンバイをはじめた。おー、とか、いえー、とか言う覇気のない声と口笛がまばらに上がったが、観客の反応は薄い。ライヴというからにはもっとこう、一気にヒートアップするオープニングを予想していた僕は、肩すかしを喰った。アマチュアだからなのか、それとも人気がないのだろうか。
四人組か、とぼんやり思ったときだ。いきなり強烈なライトがステージ後方から客席に向かって疾り、僕は一瞬目が眩んだ。うろたえてぎゅっと目を瞑ったと同時にドラムのカウントが弾けて、ライヴがはじまった。
耳がどうにかなりそうな大音量だった。いや、それよりも眩んだこの目をどうしてくれる ! まったく、アマチュアのくせして、しかも大して広くもないこんなステージで、なんだってあんなに派手な効果が必要なんだろう ?
やっとまともに見えるようになったのは、何十秒かあとだったはずだが、そのとき僕は誇張じゃなく、間違いなく呆けた、と思う。
それが“彼”を見た瞬間だった。
“すげぇ、カッコいい…… ! ”
そんな陳腐極まりないセリフを、僕は何度も胸のなかで繰り返した。いや、もしかしたら実際に口に出していたのかも知れない。そうだとしても、自分の耳にさえ聞こえはしなかったが。
最初に目に飛び込んで来た、向かって右端のギタリスト。このときはじめて僕は彼らが四人ではなく五人組なのだと知ったのだった。とても目立つ彼のシルエットからして、彼は最後に、僕が目を眩まされているあいだに出て来たのに違いない。
それにしても彼は------彼は、ほかのメンバーとなんと違っているのだろう。年格好は同じくらいに見えるが、いくつくらい、などというのは子供の目からではわからないし、メイクしているのでなおさらだった。そのメイクにしても、四人が厚化粧の、はっきり言って全然似合っていないのに対して、彼はかなりきつい創りであるにもかかわらず、削がれたように精悍で、なにか極めて精緻なアンドロイドを見ているかのようだった。
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