17人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
どんなに初心者でも、とりあえずは三ヶ月も猛練習すればそれなりに格好がついて来る。そうした頃にはじめて、俺はバンド仲間に彼のことを打ち明けた。バンド名は覚えていたので、できれば皆でもう一度あのライヴ・ハウスに潜り込み、一緒に彼のプレイを見たいと思ったのだ。
メンバーのひとりは、そのバンドのことを知っていた。そして、俺の言葉に露骨に顔をしかめた。
『あのドタバタ走り回るだけのギタリストが ? 』
と、彼は言った。俺はもっと顔をしかめて答えた。
『あれじゃない ! もうひとりの方に決まってるだろう』
すると彼は首を捻った。あのバンドは四人編成だというのだ。当然、俺たちの会話は噛み合わなかった。
唯一考えられるのは、友達が見てから俺が見るまでのあいだに彼が加入したということだ。
そこで俺たちは(好奇心を剥き出しにしたメンバー全員で)、ことの真相を確かめるために、あのライヴ・ハウスに出かけて行った。あのバンドが出ていれば、またどうにか歳をごまかして入り込むつもりだったが、ちょうど店の外に出て来た従業員らしいのに尋ねると、あそこは最近解散したと教えてくれた。
さもあろう、光り輝くプレイヤーが彼ひとりしかいないようなバンドでは。
俺は勢い込んでその従業員に尋ねたものだ。もうひとりのギタリストは、ではそれからなんというバンドに入ったのだろうか ? それとも、そう、こちらの方が可能性は高いと思うが、もしやもうメジャー・デビューを果たしたのではないか ?
しかし、返って来たのは相手の怪訝な視線だけだった。
あのバンドはやはり最初から四人だったし、解散するときまでメンバーが変わることもなかったという。それでも信じられなかった俺は、従業員に頼んであのバンドのビラを探し出してもらったが、手製らしい写りの悪いメンバーの姿はたしかに俺があの夜見たバンドに間違いなく、そして彼の姿はどこにも写っていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!