13人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
外から煌々と照らされて、明かりを消しても部屋はうっすらと見えるものだと、越してくる前は思っていた。いくら都内でも通りに面していなければ案外夜は暗いのだ。
サイコロを振る。ヒトマス進む。
ごそごそとシーツが擦れる音で、私は重い瞼を半分開ける。
「イズミ、起きたか」
夜中、近くの工場に入っていくダンプが築三四年のアパートを揺らす。六畳のワンルームはサーチライトに照らされ、半袖にトランクスを穿いている彼を映した。
「ん……タクさん、今何時?」
「もうすぐ四時かな」
「今日は早番なの?」
ゆっくりと私は布団から身を起こす。「いいよ寝てて」と促されるも、ううんと首を振った。
「朝ご飯は?」
「早く行って廃棄もらうから大丈夫。吸っても?」
こくん、と目をこすりながら頷く。それを見てタクさんはライターを鳴らし、咥えたタバコに火を付けた。
「電子にしないの?」
「あー、物足りなくて」
「そう」
着ていたキャミソールの肩が落ちていることに気付き、かけ直す。
「聞かないでいいよ」
「んー?」
薄暗くて青っぽい部屋に、吐かれた煙がじんわり広がる。
「たばこ」
「だって聞かないと怒るじゃん」
「っ、それは、ちょっと前の話で……」
フタマス戻る。
去年この部屋に三回目にきたとき、私はタクさんに向かって吸わないでと言った。「ここ誰の家だと思ってるの」と無表情に返され、それ以来すっぱり決まってしまった。
タクさんの上がり。私はまだ、サイコロを振っている。
「もう言わないんだ? 吸わないでって」
「い、言わないよ」
布団の端に立て膝をついて座る、広い背中に後ろから抱きつく。
「ふうん」
最初のコメントを投稿しよう!