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Day 9. 一つ星(友情コメディ系)
「振られた!渾身の告白だったのに!」
乾杯もそこそこに、友人はビールを飲み干して大きな声で叫んだ。
「声がでかい」
驚いた顔をしている周囲の客に俺が頭を下げ、友人に向かって顔をしかめた。
「振られたって、この前言ってたあの子か?」
「当たり前だろう!告白するほど惚れている女性が、同時に何人もいるわけ無いじゃないか!」
世の中にはそういう奴もいるんだよ、とは言わないでおく。絶対に話がややこしくなる。
「それで、渾身の告白ってお前、何て言ったのさ」
「君は俺の一つ星だ!付き合ってください!……と言った」
「……ちなみに、どういう意味か聞いていいか?」
「どうもこうも、一つ星は北極星だぞ。俺が迷わないように照らしてくれる、なくてはならない存在だ、という意味に決まっているだろう!」
決まってるもんか。俺は呆れてため息をつく。
「あのな、一つ星って言われて、北極星を思い浮かべる奴は稀だろうよ。大抵の人間は、ミシュランガイドを思い出す」
「ミシュランガイドって、星三つでランク付けをするあの……」
そこまで言って、友人は目を見開いた。
「つまり俺は、三つ星のうちの星一つと言ったと思われたのか?!」
「じゃねぇの?」
「そういえば彼女、『こういう時は三つ星って言うもんじゃないの?!』と怒っていた!」
「ずばりじゃねえか」
もはやため息も枯れ果てる。
馬鹿だろお前と呆れていると、友人はスマートフォンを握り締めて突然立ち上がった。
「ちょっと電話して謝ってくる!」
「着拒されてなきゃいいな」
友人は言うやいなや店を出ていったため、俺がかけた言葉が耳に入ったかどうかは分からない。
ただ、きっと戻ってきたときにアルコールは必要だ。
「店員さん、ビール一つおかわり。あと枝豆も」
気が利く奴だよ俺は。
一人でビールをちびちび飲みながら、俺は馬鹿な友人が戻るのを待った。
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