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Day 10. 誰かさん(ピュア恋系)
友人の真美はよく物をなくす。
なくしたからと新しい物を買って、前の物がひょっこり出てくるなんてことも、ままある。
おっとりしていて、絵に描いたような天然女子。別にぶりっ子をしているのではなく、これが本性なのだから恐れ入る。
今日も今日とて、真美は何かをなくしたらしい、のだが。
「下敷き見つけてくれたの、ユキちゃん?」
「……何のこと?」
私にはとんと心当たりがない。
「今日ね、下敷きなくしちゃったんだけど、今おトイレから帰ってきたら机に置いてあったから」
ユキちゃんじゃなかった?
首を傾げる真美には申し訳ないが、私ではない。けれど、さっき真美の机に立ち寄ったクラスメートなら、心当たりがある。
「親切な誰かさんがいるもんだねぇ」
私はわざと、そいつに聞こえるような声で言った。真美の後ろの席で寝たふりをしている茶髪頭が、ガタッと揺れる。
「最近、なくしたと思ってた物がいつの間にか机に戻ってきてるの。私、なくしてなかったのかなぁ?」
「そんなわけないでしょ」
私は笑う。「親切な誰かさんが、いつも机に置いてってくれてるのよ」
茶髪頭がのそりと顔を上げ、真美の死角から私を睨む。この幼なじみの不良が真美に惚れていることは、私もなんとなく気が付いていた。
「その人にお礼言いたいんだけどなぁ」
そんなことは露知らず、真美は嬉しそうな顔をしているし、茶髪小僧は余計なことを言うなとさらに顔を険しくしている。
これは笑うなという方が無理だ。
笑いをかみ殺している私を不思議そうに見ている真美に、ごめんごめんと謝って言う。
「誰かさんが名乗り出てくれるといいね」
「うん」
再び寝たふりを始めた誰かさんを見て、私は腹を抱えて笑った。
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