Day 11. 栞(ちょっと未来の話)

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Day 11. 栞(ちょっと未来の話)

本の収集はお年寄りの趣味、というイメージがある。 新聞も小説も全て電子化されるようになってから、すでに何十年もたった。紙の本を見たことがない友人も多い。 私はというと、父が収集癖のある人なので、部屋一面の大きな棚いっぱいに本が詰まっている。 正直、邪魔だな、と思う。 全て電子端末で読めるのだから、この紙の山の分だけ他の物を置けたはずなのだ。 身近にあるからこそ、私は本を好きにはなれなかった。 ある日の学校帰り、私は紅葉を拾った。 この辺りに紅葉の木はない。どこから来たのだろうか。 不思議に思って拾い上げようとして、私はおや、と首を傾げた。 紅葉は、ラミネートのような物でコートされていた。木から落ちてきたわけではないらしい。 「すみません、それ私のなんです」 拾った紅葉を眺めていると、前を歩いていた女性に声をかけられた。私は慌てて紅葉を差し出す。 「拾ってくれて、ありがとう」 にこりと微笑んだ女性は、手に持っていた本に紅葉を挟み込み、パタンと閉じた。 紙の本だ。 「珍しい?」 私の視線に気付いた女性は、本を顔の横に掲げた。 「い、いえ、すみません、そういうつもりじゃ……」 私は慌てて取り繕う。 「本は、家族が持ってるのでよく見るんですが、紅葉を挟んでらっしゃったので……」 ああ、こっちね、と女性は先ほど挟んだ紅葉を取り出し見せてくれた。 「栞よ」 「栞?」 「どこまで読んだかっていう目印だけど、季節を持ち歩いているみたいで素敵でしょ」 それじゃ、と女性は改めて感謝を述べて去っていった。 栞は、電子書籍にも機能として搭載されている。けれど、実物は見たことがなかった。 「綺麗だったなぁ」 紙の本に、こんな楽しみ方もあることを初めて知った。今だって、紙の本は好きになれない。なれないけれど。 「栞は、ちょっと羨ましいな」 電子書籍にない良さがあることを、私もちょっとだけ理解した気がした。
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