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Day 15. オルゴール(暗め)
私は別に、なりたくてアナウンサーになったわけではない。
別部門で採用されて平穏に仕事をしていたはずなのに、人手不足の折りに顔と声を買われて急遽代打出演させられ、挙げ句それが評判よかったからと異動させられただけにすぎない。
私にとっても不本意だが、アナウンサーになりたくてなれなかった人や、元々はアナウンサー部門だったのに異動させられた人からしたら、なお面白くない。
当然だろう。その心理は私も分かる。
だが、分かるからと言って、悪質な嫌がらせに耐えられるかというと、それは別問題だ。
日々囁かれる嫌み。言い触らされる悪評。
様々なアプローチで耳に入る陰口に、私は疲れ切っていた。
そんな日々の中、アナウンサー部の先輩の言葉が、私にとって唯一の救いだった。
「貴女、オルゴールみたいだから仕方ないわ」
他部門の女性たちが、こちらに聞こえるように嫌みを囁きあっては消えていくのを見て、先輩は言った。
目を細め、ゆったりと口角を上げ、艶やかな笑顔を見せて。
「……ありがとうございます」
私は彼女に礼を言った。上層部に買われた顔と声。それを、先輩にも認められたのだと思った。
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