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その日も美穂は、犬は柴犬だったらいいな、などと考えながら塀に沿って歩いていた。
集団登校の班の子と合流するのは、この先の郵便局の前だ。一人で歩く時間も、この家のことを考えているとワクワクするので寂しくない。
いつも通りの通学風景。
今日も美穂は、門のチェックをして、何事もなく皆と合流する。そう思っていた。
けれど、駆けていた足がぴたりと止まった。
「開いてる……」
美穂はぽかんと口を開けて、門から目が離せなくなった。
開いていると言っても、ほんのわずかだ。中が見えるほどではない。誰かが門を通った後、最後まで閉め切らなかったのだろう、そんなわずかな隙間。
今ならそっと戸を引いて、中を覗き込めるのではないか。
美穂はごくりとつばを飲み込んだ。ランドセルの肩紐をぎゅっと握って、きょろきょろと辺りを見渡す。誰もいない。
大丈夫。ちょっとだけなら、大丈夫。
自分にそう言い聞かせ、美穂はそろそろと手を伸ばした。
あともうちょっとで手がかかる。その瞬間、がららっと音を立てて戸が開いた。
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