9人が本棚に入れています
本棚に追加
Day 14. うつろい(コミカル系)
「女心と秋の空って言うじゃない?私あれ、納得いかないのよ」
ハンバーグに舌鼓を打ちながら、友人が言った。
「ふむ、その心は?」
私は、ステーキにナイフをいれながら訪ねる。今日は二人して肉の日である。
「昨日読んでた小説で、ころころ恋人を変える悪女を指すのに出てきたんだけど……。女性だからってみんながみんな、好きな人をころころ変えるわけじゃないじゃない?」
「そりゃあそうだ」
「むしろ、二股三股かけるのは、男の方が多い」
それはうつろいやすさとは、ちょっと違うのでは。
そう思いつつも、彼女の興を削ぐほどでもなし、もぐもぐしたまま続きを促す。
「なのに、変わりやすいものの代表格が、女心って。そんなの一部の人だけでしょう?!一途に生きてる私たちに失礼だ!」
一息に言い切った友人は、ハンバーグにざくっとフォークを突き刺して豪快にむさぼった。
「それは、確かに」
友人含めて、私の周りにそんな悪女めいた女性はいない。納得とともに、ステーキを飲み込む。
「だからね、女心に変わる、うつろいやすい物の代表を決めたい訳よ」
「ほほう」
「それで、SNSでバズらせて定着させてみせる」
ずいぶんと壮大な野望だ。
「何かないかなぁ」
うーむ。付け合わせのスープを飲みながら、私は思案する。
「あ、スイーツ欲はどう?シュークリーム買おうと思ってお店に行ったのに、美味しそうなケーキを見てそっち買っちゃうとか、あるあるじゃない?」
「あるあるだ……!」
どうやら合格したらしい。私も満足げに最後の一切れを頬張る。
「あ、でも」
友人がハッとした顔をした。
「今日の私たちも、最初は魚を食べに行こうって言ってたのに、この店の看板を見た瞬間に肉の口になったよね」
「……なったね」
「と言うことは、スイーツ欲ではなく……」
「食欲、かな……」
私たちは、すっかり平らげた肉料理を思い浮かべながら呟いた。
「食欲の秋……」
「意味変わってる」
最初のコメントを投稿しよう!