グラデーション

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 嘘なんてつくもんじゃない。でも、中学生にも“付き合い”はある。恋バナで盛り上がる時に、あんたは? って振られたら、毎回「別に」ってわけにはいかない。  今思えば、芸能人とかYouTuberとか、何ならアニメやゲームのキャラから適当に推しを選べば良かった。りーみょんもナホチも、相手が誰かは気にしてない。ソシャゲで知り合った人だと、さすがにやめとけって言うだろうけど。  よく喋る子ほど「自分の話だけするのは嫌われる」そんな固定概念で、聞いているだけで十分な私にターンを回す。話題を提供しないと、遠慮していると思われ余計気を遣われる。失望と疎外……まではいかない微妙な空気が、ピンポン玉を飲み込んだ気分にさせるから、私はある日、「ちょっと気になる人が」と、クラスメイトの名前を挙げた。  遠藤は私たちの祭壇に捧げられた生贄だ。祭壇は主に水曜日、部活後塾待ちのファーストフード店のテーブルに設けられる。広げたハンバーガーとポテトは早めの夕食と称したお供え物だ。私たち三人とも幸せになれますように。ほとんど呪いに近い女子の祈りが、生贄とともに捧げられる。 「でね、二階の渡り廊下から、体育館に向かってる篠崎君見つけたと思ったら、一瞬こっち見上げてきてね、目が合った気がする!」  ナホチはイケメン篠崎に片恋中。誕生日や血液型などの情報を調べては喜んでいる。この調子だと「今日の篠崎君」のタイトルで日記までつけていそう。 「目が合ったら逸らさずに三秒、やってみた?」  スマホをいじりながらりーみょんが聞く。最近付き合い始めた内田にメッセージでも送っているのだろう。 「見てたけどさー、すぐ行っちゃったし、一階と二階でだいぶ離れてても意味あるのそれ?」 「今度近くで試してみればいいじゃん」 「むりー! 考えただけで恥ずかしすぎて死ねる!」  ナホチが両手で顔を隠して、そのままほっぺたを下に引っ張って半魚人顔をしたから、私とりーみょんは吹き出して、三人でしばらく笑った。  着々と大人の階段を昇るりーみょんは眩しいし、ナホチは妹タイプでかわいい。二人の話を聞いてるだけで私は楽しい。  でも、 「で、ゆずこは?」  やっぱり私の番が来る。 「いや……グループトークでも送ったけどさ、まだ好きとかそういうのじゃ……」  歯切れの悪い私に、 「もー、こないだからずっとそれじゃん」 「ああっでも、どうなんだろうこの気持ち……っていう頃が一番ドキドキするかも!」  二人は勝手に盛り上がっている。  向かいの窓に西陽が回り込んで、床に固定された椅子から動けない私は、古い刑事ドラマで取り調べを受ける容疑者のように照らされていた。
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