グラデーション

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「やっぱちょっと違うかな」  昨日見た場面を思い出して、私は結論を二人に伝えた。ハンバーガーの最後のひとくちを飲み込んでナプキンで口を拭う。 「そっかぁ」  りーみょんは指についた塩を舐めて、それ以上何も言わなかった。ナホチはなんでなんでとうるさかったけど、 「私、やっぱり二次元がいい」 と言ったら納得し、自分の推しキャラの話を始めた。  いつのまにか西陽が気にならなくなっていた。窓の向こう、下のほうにほんのりした明るさが残っていたが、上からは夜が降りてきていた。 「あ、もうピアノ行かなきゃ。じゃあ、私の分も篠崎君を観察しておくように!」  自分のトレイと、私とりーみょんの分を片付けて、ナホチは店を出て行った。  ナホチは音大に進むと決めていて、水曜のレッスン以外は自宅練習のために部活後直帰だ。まだ将来が漠然としている私とりーみょんは篠崎と同じ進学塾で、授業開始までもう三十分ほどここで時間を潰す。 「ナホチはいつまでも恋に恋してるって感じだね。付き合っちゃったら熱が冷めるパターンかもね」  手元に残された紙カップから、りーみょんがズズズとコーラをすする。ナホチもたぶん、自分でわかっているはずだ。篠崎ファンなのは嘘じゃなくても、篠崎に合わせて自分の進路を変えたりはしない。“今”を最大限に楽しんで、未来を冷静に見つめている点では、私よりもずっと大人だと思う。そういう意味では篠崎も祭壇の生贄に違いない。  テーブルに置かれたりーみょんのスマホが震え出し、応答しながらりーみょんは席を立つ。内田からなのはすぐわかる。 「私、ゲームしてるね」  離れていく背中に小さく声をかけると、りーみょんは手振りでゴメンを返してくる。私はバッグからスマホを出して、アプリを起動する。  私たち三人とも幸せになれますように。  遠藤が幸せでありますように。  すっかり片付いた祭壇でひとり、こっそりと祈る。
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