19人が本棚に入れています
本棚に追加
バイト上がりでお腹を空かせていたせいもあってか、大量に作った料理のほとんどを平らげてしまった。それなりに身体も大きいからこれくらい普通なのかもしれないけれど、それでも私の胃袋との違いに呆気にとられる。
「ごちそうさまでした」
「大丈夫? 無理してない?」
「なにが?」
「頑張って食べてくれたのかなぁ、って」
私の言葉に、え、と固まってしまった。つい出てしまった後ろ向きな発言に、慌てて口を噤む。
後悔しても遅い。どうして私は、すぐにこうやって不安になってしまうんだろう。料理なら喜んでくれるかもしれない、と意気込んだくせに、彼の反応が良くないものだったらと怯えてしまう。
「美味しかったよ、本当に」
それは、食事の最中にも言ってくれた言葉だ。
「俺、花さんの手料理好き。前作ってくれたのも美味しかった」
「前って……」
泊ってくれた日に作った、即席の野菜炒めを思い出す。冷蔵庫の残り物で作った、質素なものだ。
「あんなの、手料理なんて言わないよ」
「でも美味しかったし。俺は、花さんが作ってくれることが嬉しいから」
そんなふうに、当たり前のように言ってくれると思っていなかったから、なんだか恥ずかしくなって俯いた。真希ちゃんの言っていた通りだ。私があげたものを、葵くんは素直に喜んでくれる。
明日も平日なので、あまり遅くなる前にと葵くんに帰り支度を急かせた。大学は一限目が無いからか悠長にしているけれど、私はいつも通りに早朝から動きださなければいけない。
「花さん、あのさ」
どこか帰るのを渋るかのように座ったままの葵くんが、呟くように言った。なに? と聞けば、なんでもない、と返ってくる。
「気を付けて帰ってね」
「べつに心配いらないよ」
男だし、と付け足して言う。玄関で靴を履く後ろ姿を見つめた。なんだか名残惜しい。いつもはもっとたくさん一緒にいられるから、こんなすぐ別れなくちゃいけないのは寂しいな。
最初のコメントを投稿しよう!