はじまり

2/16
前へ
/57ページ
次へ
手始めに、と金髪の男はおれのシャツのボタンを外し、インナーの裾を捲りあげる。そのまま胸の周りや胴周り、何もないかと入念に這わる手は非常に不快だった。カサついてゴツゴツした男の手が肌を撫でていくのは、知らない体温が触れるのはなんともいえず気持ち悪い。 薄い皮膚の上を滑る人肌がくすぐったい。おれも人並みに脇腹はくすぐったくて身を捩る。ひ、と吐息が漏れると、金髪の男は微妙な表情でこちらを見た。 「男のくせにきれーな肌してんな。吸い付くようだぜ、真っ白で傷もねえ」 「知らな、っ、はやく終わらせろ」 「もうちょい成長して、顔がよけりゃ売れるんだがなあ」 「は……?」 人身売買までありなのか。こんなことならインドア派なんてやめて日に焼けてシミだらけになればよかった。ゾッとして言葉を紡げないでいると、緑髪の男が「早くしろ」と金髪の男を急かす。適当な返事をして、金髪の男はとうとうおれのベルトに手をかけた。 ガチャガチャとベルトを外し、慣れた手付きでおれのズボンをおろす。足元にぐしゃぐしゃになってたまるズボンを虚しい気持ちで眺める。男はそのままおれのパンツまでおろしてしまった。無慈悲だ。 「お前まじで何も持ってねえのか? 無一文で街に出て何しに来たってんだよ」 「だから、何も持ってないって、言った」 いまだ消えない恐怖心と、暴かれたことのない場所を晒す恥ずかしさで声が震える。金髪の男は自分で脱がしておきながら「縮こまってかわいそうにな」とおれのちんこをかわいそうな目で眺めている。見るな。さっさと衣服を直させてほしい。中途半端に脱がされた今のおれはなんとも情けない格好だ。 金髪の男は足元におとされた衣服も入念に調べ、何も見つからないことに納得いかないという顔をして首をひねる。いいから開放しろと口を開こうとしたとき、緑髪の男がとんでもないことを言い出した。 「ケツの中に入れてんじゃねーの」 「たまにいるよなあ。運び屋かって」 「ば、ばかじゃねえの! 何が入るっていうんだよ!」 「コインくらい隠せるんじゃねーのか?」 「もうやだ、じゅうぶん確かめだだろ!」 「暴れんなって言ってんだろ!」 暴れたことにより拘束が強まり、そのことに怯んだ一瞬を狙ったかのように背後から頭突きをかまされる。地味に痛いし、容赦のない衝撃に視界が揺らぐ。舌打ちをしながら、金髪の男は自らの腰に下げた袋から縄のようなものを取り出した。嫌な予感しかしない。そう思ったのも束の間、その予感は的中する。いまだ頭がクラクラしてろくに抵抗できないのをいいことに、彼らはおれの両手を後ろ手に縛り上げてしまった。 緑髪の男はおれの肩と拘束した両手を掴んでおり、その力が緩むようすはない。いよいよどうしようもなくなってしまった。仮に彼らの拘束から逃れられたとして、足元に絡まる衣服のせいで走れないだろうし、それを顧みず逃げ出したとして下半身丸出しのおれを助けてくれる聖人がいるだろうか。どう見たっておれが変質者じゃないか。 うなだれるおれの顎を掴み、金髪の男はおれの口にずぼっと指をつっこんだ。舐めろと言わんばかりにおれの舌に指を絡める。 「指の一本くらい意外と入るもんだぜ。ま、痛い思いしたくないならしっかり舐めとけよ」 「ん、ぅう、」 「そうそう、うまいじゃねえか」 下品な笑い声をたてながら、金髪の男はおれの舌を指先で撫でる。ぞわりとした感覚が背中を走る。知ってか知らずか、男の指はおれの口内を蹂躙するように動き回り、ようやく抜かれた男の指は、おれの唾液で濡れていた。 「お前、脚持てよ」 「しゃーねえな」 短く会話を交わすと、おれの肩を掴んでいた男の手が離れた。そのままおれを後ろから抱き込むように強く拘束され、縛り上げた手を掴んでいた手も続いて離れる。なんだろうとぼんやり眺めていたおれの右脚を、金髪の男がぐいと折りたたむように持ち上げる。 「う、わ、あぶな」 「しっかり立ってろよ」 持ち上げられた脚は緑髪の男の手に渡った。太ももを裏から掴み上げられ、不安定な体勢にびくりと揺れた肩を背後から抱える男の腕に抑えられる。脚を持てって、こういうことか。片足を上げたことによって秘部が彼らにはっきり晒されていることに顔が赤くなる。 先ほどまでおれの口内にあった男の指が、おれの尻の穴に触れる。確かに、テレビでもクスリの運び屋が下着の中だの尻の穴の中だの、カプセルに入れて飲み込むだの、いろいろ見た。ここでもそういうのは当たり前なのか。ぐるぐると考えていると、ぐにゅりと指が押し入ってきた。 「いっ、」 「一本ぐらい痛くねーだろ。優しくしてやってんだから感謝しろよ」 「きもち、わるい…っ」 ぬぐぬぐとおれの中を指がまさぐる。一本とはいえ、何かを入れる場所ではないそこは違和感を訴え続けている。ずず、と少し深く入れられ腰が引けるが、おれの脚を掴む力が強まり叶わなかった。 違和感と、普通なら経験することのない状況への恐怖に呼吸が浅くなる。羞恥で赤くなっていた顔は、いまや青くなっているだろう。抑え込まれている体もきっと震えている。情けないと思いながら、はやく終わってくれと祈ることしかできない。 先ほどより深く入り込んだ指が探るように折り曲げられた瞬間、今までとは全く違う感覚が駆け抜けた。 「ああっ!? あっ、なん、」 「あ? あー、男にもいいとこあるらしいなあ」 「やめ、やめろっ、あっ! やだ、んんぅ…っ」 おれが感じたのは、確かな快感だ。男が「いいところ」と称したそこを指で押すたびに、腰がびくびくと跳ねる。お前らが探してるのはそれじゃないだろ、と言いたいが、おれの口から溢れるのは喘ぎ声だけだった。 「やぁ、あっ、やだって、いっ、ああんっ」 「…お前、感じてる顔はなかなかそそるじゃねえか」 「間近で喘ぎ聞いてるこっちの身にもなれよ」 背後にいる緑髪の男がぐいと腰を押し付けてくる。俺の腰やや上あたりに熱い感触。まさか、おれの痴態で勃起したというのだろうか。ごり、と押し当てられる熱から逃れたいが、背後からの拘束は強まるばかり。 「何も持ってないなら、体で払うしかねーよなあ?」 「いや、やだっ、はなせよ!」 「顔はフツーだけどよ、肌も白くてキレーで後ろの感度もじゅうぶんだろ。おとなしくケツ差し出せよ」 「はあ!? も、やだぁっ、ん、!?」 どうにか逃れようとするおれを二人がかりで押さえつける。背後から緑髪の男がおれの首筋に舌を這わせ、ぬるりと舐めあげられる感覚にぞわぞわと鳥肌が立つ。数度それを繰り返し、男の舌はそのままおれの左耳に突っ込まれた。ぐちゅぐちゅと湿った音が響き、羞恥で涙が出てきた。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

249人が本棚に入れています
本棚に追加