はじまり

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金髪の男は入れていた指はそのままに、おれのちんこを扱き出した。直接的な快感に、否応なしに声が漏れる。気持ちよさに力が抜けた瞬間に、男の指が更に深く入り込む。 「あっ、あっ、いや、ぁあっ! やめ、ああ…っ!?」 「お、ここだろ。さっきのいいとこよりちょい奥、こっちのが女に近い気持ちよさらしいぞ」 「知らな、ぁっ、やだ、やめて…っ、ああっ、あっ」 変だ。おかしい。ゆるく扱かれるちんこの気持ちよさとは違う気持ちよさを、おれは尻で感じている。はっきりと快感として拾っているわけではないが、このまま続けられたら、きっとよくないことが起こる。何も知らないのに、直感的にそう思った。 「もっとゆるめねーと入んねえんだよ。男に無理矢理つっこんでもこっちもいてーしよお」 「は…!? むり、はいるわけ、な、あっ、んんぅっ!」 おれの尻にちんこつっこむ気か、絶対に無理だ、そう伝えようとすると急に鈴口をぐりとえぐられる。敏感なそこに急に与えられた強い刺激はつらい。唸るおれの背後で、緑髪は首筋や耳、鎖骨をひたすらいじめ抜いているし、金髪の男はおれに挿入しようと奮闘している。おれの体もおかしいが、おかしくさせているこいつらもおかしい。 言っていたように、おれは特別顔やスタイルがいいわけでもない。異性だろうが同性だろうが、性的に魅力的である自信は皆無だ。肌がどうこう言っていたが、単純にインドア派なだけで、特別おれがきれいなわけでもない。 「せめてもう一本入りゃなあ…三本は入んねえと俺が気持ちよくねえ」 「俺そろそろ限界だわ」 「我慢しろって、お楽しみはこれからだろーが」 「あっ! も、だめっ、入んないって、言ってる…うあああっ!」 いつの間にか指は二本になっていたらしく、そこへ更に三本目が追加される。背後の男は我慢できないと言うやいなや、おれに再び股間を押し付けてそのまま腰を振っている。おれでオナニーしている、と気付いてしまうと、恥ずかしいやら悔しいやらで涙が溢れた。 おれは女性じゃない。たとえ男のちんこが尻にねじ込まれたとしても、妊娠の可能性がないだけダメージは少ないかもしれない。それでも、他人におれの体をいいようにされるのは嫌だった。男なんだからちょっとくらい良いだろう、という話ではない。人としてのプライドがある。 ましてや誰かに性的に興奮されるとは思いもしなかったし、自分がその対象になりうるなんて考えたこともなかった。それなのに、男が熱い猛りを腰に擦り付けてくる。 「あーあ泣いちゃってかわいそ。けどそういうのって逆に男を煽るもんだぜ」 「うっさい、っう、ひっ、ああ…っ!」 「泣きながら喘ぐのやっべ…俺もう出そっ、う」 「っ! や、だ、ぁっ…擦りつけんな、」 「その顔もたまんね、あー、出る」 ぐすぐすと泣いていると、後ろの緑髪が達したらしく、ぐしゅぐしゅと湿った音を立てながらいまだ股間をゆるく押し付けている。金髪の男もそろそろいいだろうと思ったのか、指をずるりと引き抜いた。 嫌だ。これで終わるならいいと少しは思ったが、いざ見知らぬ男にいわれもなく犯されるというのは恐ろしい。無理矢理に引き出された性感はおれのものだが、おれの気持ちとは違うものだ。誰でもいい。助けてほしい。神様とか、なんかそんなのでいい。 助けて。ただそう願った。 今までにないくらい、強く強く願った。 おれの願いが通じたのか、たまたまなのか、それはわからない。わからないが、願った瞬間に強い光に覆われた。おれが公園のトイレで見たあの光だ、と思った。光源はあの無駄にきれいなトイレからだった。 「なんだ!?」 「てめ、魔法使えんのか!?」 「っ、魔法…?」 「まだ目の前が真っ白じゃねーか!」 突然の眩い光に、男たちの手はおれから離れている。おれも目がチカチカするのだが、体にまとわりつく彼らの手の感触がないことに気付いて取れるだけ距離を取った。手の拘束さえなければ、ズボンを引き上げてなんとか逃げおおせることができたのに。 ぼんやりと視界に世界が戻ってくる。どうしたらいい。両腕を縛られ、ぐずぐずの下半身を抱えたまま、どう逃げたらいい。内心焦るものの、全く良案が浮かばず更に焦る。そんなおれの背後から、ひどく優しい声がかけられた。 「……君か。もう大丈夫だよ」 「え、」 「おい坊主! 逃げられると思うなよ!」 「こっちもちっとは見えるように……あ?」 眩しそうに目を眇めたまま、なんとかおれを視界に捉えた男たちは、一人増えたことに気付いたらしい。おれを庇うように立つのは、白を基調とした隊服のような衣装を身にまとう騎士然とした男性だった。 これで二対二ではあるが、実質二対一だ。屈強な男二人相手に太刀打ちできるものなのか、とハラハラする。暴漢たちが「調子に乗るなよ」「坊主庇って戦えると思ってんのか」と騒ぎながら二人がかりで騎士らしき男に襲いかかり、思わずおれの体が強張った。 男は別段焦ったようすもなく、すっと手を前方にかざす。その手をそのまま横に払うように動かしただけなのに、暴漢二人の大きな体は吹っ飛び、その体にはいくつも切り傷を負っている。何が起こったのかはわからないが、おれの心配は杞憂だったようだ。 傷だらけにもかかわらず、暴漢たちは立ち上がった。しかし、先ほどのように向かってくるようすはない。男はいまだゆったりとした構えで暴漢たちと対峙している。 「まだやるなら、気が済むまで相手はしよう。かかってきなさい」 「こいつ…!」 「おい、風の魔法を操る騎士っつったら、アイツじゃねーのか」 「はあ!? こいつが…?」 細かい傷から血を流しながらも襲いかからんとする緑髪を制したのは金髪だった。どうやらこの男に見覚えがあるらしい。二人の表情が曇る。今まで真っ赤にしていきり立っていた顔からは血の気が失せている。そんなに強いというか凄い人なんだろうか。 「今日のところは見逃してやる!」 「次会ったら覚えてろよ!」 「……こっちの台詞だと思うんだけどな」 これぞ捨て台詞といった言葉を置いて、暴漢たちは去っていった。去る、というよりは尻尾を巻いて逃げた、という感じだった。
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