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プルルル プルルル カチャ
「お誕生日、おめでとう。」
今日も名も顔も見も知らない誰かへ、おめでとうコールをかける。
ネットが世界を席巻し、代わりに気薄になった人間関係や繋がり、
絆。目に見えないものを疎かにした時代に危機感を覚えた俺は、
ある日唐突にSNS上で「おめでとうコール」サービスを始めた。
電話番号と誕生日を登録してもらい、当日におめでとうコールを
掛ける、ただそれだけのサービスだ。初めて1年は見向きもされなかったが
2年目に差し掛かると急に依頼が増え注目される様になった。当然
「レンタルなんもしない人」の後発版だと批判・中傷される事も
あるがそれは覚悟していた。サービスの内容も「誰かに側に居て欲しい」
「誰かに祝われたい」と人との繋がりに価値を見出した面は偶然にも
同じだったからだ。
でも俺がこのサービスを始めたのは他にも理由がある。最愛の母を
言いたい事を言えずに失った記憶があるからだ。中学生の頃に
些細な事で母と喧嘩し家を飛び出した俺を探しに出た母は、その途中
事故に巻き込まれ命を落した。後日確認した家の留守電には、探しに
出てた母から俺宛にメッセージが残されていた。
「もしもし?、もう帰ってるのかしら。入れ違いだったかな。日が変わる前
に言いたかったの。お誕生日、おめでとう。」午後11時57分のその
メッセージが母からの最期の肉声だった。
「ありがとう。」
電話に出た相手の声にドキりとした。母の声に似ていたから。
「こんなオバさんでゴメンナサイね。主人が亡くなって寂しくて。
誰からも言われなくなって寂しくて。」
その声質に涙がポロポロと流れ出した。まるで母と会話してる様な
感覚が俺の心を強く揺さぶった。
「来年もお願いして良いかしら?。」
母さんと呼びたい、母さんと呼びたい。そんな欲求をひた隠し応答する
「はい、喜んで。」
「ありがとう、また楽しみができたわ。」
誰かの為に始めたサービスがまさか、こんな形で俺を救うとは。
見えない繋がりに救われたこの一件は、間違いなく俺の糧になった。
これからも続けていこう。そう強く決意したのは言うまでもない。
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