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軽くなった足は、まるで羽でも生えたかのように、迷わず私をバス停へと運んだ。
強く打ち付けるような雨なんて、これっぽっちも気にならなかった。
そして、私が辿り着くと同時に、いつものバスが入って来た。
一拍遅れて響くのは、扉という無機質に詰まった、わくわくの足音。
開き切ったこのドアの先に、あの幸せな色が待っている。
早く、早くと、せがむような早歩きで車内へ入ると、私は迷わず右側——後方に目をやった。
いつもの席に、彼が座っている。
それを眺めたくて、少しでもその幸せに触れたくて、私は彼の横を通って一つ後ろの席に座っていたんだ。
でも、それは昨日まで。
今日だけは——
恐る恐る、一歩、また一歩と進んでいく。
今日も変わらず『桃色』の彼なら、その答えをくれそうな気がする。
不安はやっぱり拭えないけれど、知らない人に話しかけるのは怖いけれど、それでも、明日の一歩を踏み出す力にはなるだろうから。
勇気を得る為のほんの少しの勇気を、たまには自分から出してみよう。
彼を観察するのは、これで最後だ。
一つ、大きく深呼吸をして彼の隣に腰を降ろすと、私はそっと、その楽しげな肩を指先で叩いた。
「ねぇ。それ、何を聴いてるの?」
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