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もうそろそろ、僕の中で何かが爆発する。
そう思い始めていた頃、彼女が左耳のイヤホンを外した。
すると、何があったのか、僕の目を真正面に見据えて、尋ねてきた。
「これを弾いてる時、どんな気分だった?」
「え?」
「楽しかった? 気持ち良かった? それとも、嫌……だった?」
と。
嫌な訳は、勿論ない。
現状で僕が知っている曲の中では、何より好きで、弾いていて一番充実もしていたからだ。
そう答えると、彼女は表情を一変。
穏やかな笑み浮かべながら、スマホを僕の手の平に乗せた。
「きらきら、ふわふわ——音が、生きてる。とっても素敵な音」
「音が…?」
「うん。あぁ、これは私の勝手な表現なんだけどね。でも、そう見えちゃうなぁ。君の指が叩いた鍵盤から、弦を伝って、空気を通して、幸せな音が届いた」
「……そう、ですか」
「信じてない?」
「あぁいえ、そうではなく……演奏はアレなものですが、僕、それを弾いている時、とても楽しかったから。大好きな曲を、僕の音で聴いて貰えてることが、嬉しかった」
「——それは、とっても強い武器だよ」
私にはない、とっても強い武器。
そう付け足して括って、彼女はまた次の曲を所望した。
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