第2章 私の場合

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 習慣を続けていると、分かったことが二つあった。  一つ。  彼はいつも、クラシックを聴いているということ。  それも、ピアノの独奏か連弾か、いずれにしても楽器はピアノだけで演奏される曲ばかり。  作曲者もバラバラに、色んな曲をかけている。  一つ。  彼は、自身が知らない曲ばかり聴いているということ。  イヤホンから流れて来る曲に耳を傾けながらリズムを取るように少し揺れるのだけれど、それがいつも合っていない。  変テンポの曲はごまんとあるけれど、そうではなく、外れては修正し、外れては修正しを繰り返すように、バラバラな動きを見せるのだ。  いつも変わらず同じ色をしているのは、毎度新しい曲を聴いていることで、その新鮮さを楽しんで『興奮』しているから。  新しいもの、知らないものを吸収して、いつも違う音色に触れているからだ。 (良いなぁ…)  自然と、そんな感覚を覚えた。  同時に——ずるいなぁ。  一つ後ろの席に座って眺めながら、私はいつしか、彼に対してそんなことを思うようになっていた。
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