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数週間が経った、大雨降りしきる梅雨のある日、私はまた、先生に呼び出されていた。
習慣のことですっかり忘れていたけれど、今日は、明日を留学決定に控えた日だったのだ。
正直なところ、まだ結論は出ていない。
以前より少しは真面になったつもりだけれど、まだ何か、少し私の中で足りないものがある。
そんなことを考えて言葉を詰まらせている私に、先生は、
「最近の成績は、はっきり言ってあれですが——まだ、貴女には力が残っているのだと、私は信じているのですよ?」
「……えっと」
「決断を下すのは、あくまで貴女自身。それに対して、私は反対も憤慨もしない。けれど、もし——もし、少しでも、まだピアノを弾いていたいと思うのであれば、此度の誘いを、どうか蹴らないで頂きたい」
真剣な眼差し。
はっきりと見える、黄色と薄い茶色の混じったもの。
それは、『期待』の色だった。
私がはっきりとしない間にも、先生は私のことを見捨てないでくれていた。
惰性を引っ張っているだけの私を、まだ可能性があるのだと信じてくれている。
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