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今の私に足りないもの。
それは、自分の演奏を「これが私の音だ」と言える勇気だ。
あの一件で初めて、たまたま色が視えるようになってしまったから、私は怯えて閉じこもった。
しかし、考えてみれば、本当ならそれ以前から、認める色も、認めない色も、どちらも混在していた筈なのだ。
視えなくとも確かに存在するそれらに対し、自分を出して、出して、出し尽くして、初めてそれらに認めて貰えるのだ。
それが普通で、当たり前なのだ。
今までずっと、そうしてきたじゃないか。
ただ好きで、人前に出るのが恥ずかしくて苦手なのに発表会やコンクールに出場して、ただ自分勝手に、がむしゃらに頑張って来た結果が、天上への特待入学だったじゃないか。
どうして忘れていたのだろう。
いつから見失っていたのだろう。
クラシックに対して抱く、純粋な楽しさ。
忘れていたそれを思い出させてくれたのは、彼だ。
初めて出会う音に興奮して、興奮したそれらに幸せを覚えていた、音楽を無邪気に楽しむことを知っている彼だ。
(あの子に会えば、きっと——)
保障はない。
けれど、その僅かに足りない距離を埋めてくれる可能性が、少しでもあるのなら。
当たって、もし砕けたとしても、そこに悔いはないはずだ。
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