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溜息交じりにそう言うと、彼女は「僕には?」と、そのフレーズが引っかかったらしかった。
タイミングよく次のバス停に辿り着いたところで、彼女は僕にその理由を問うて来た。
音大や、ましてプロなぞになれる腕がないことは自分で一番分かっているが、小一からピアノを習っていて、レッスン曲意外でも、好きな曲を弾くことがあるのだと話した。
すると彼女は、へぇ、と短く置いて、
「そのスマホ、君の演奏は入ってないの?」
と尋ねてきた。
答えとしては、あるにはある。
丁度、半年前の冬にあった発表会で弾いた姿を、データで先生から貰っていたのだ。
が、それは絶対に見せたくはない。
特に、天上に通うような人には、ミスタッチも何度かしたあんな拙い演奏は見せられない。
だから、はぐらかして逃げるつもりだった。
ない、と一言だけ言って、次の曲をかけるつもりだった。
たった、それだけのことだったのに。
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