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真麻の兄
和室に入った真麻は座布団に座った。ここに、小さな仏壇がある。
真麻はコンビニで買ってきた物を供えた。リンを鳴らし手を併せた。
位牌の横に写真立てがあり時間が切り取られた世界の中で、兄が楽しそうに笑っている。八つ違いの兄。真麻は兄が大好きだった。
十年前、兄が二十歳の時、登山の滑落事故で……
急に兄の存在が消えた。そのショックは真麻の心を真っ暗にした。現実を直視することができなかった。
その時、兄の同級生やクラスメートが、真麻が元気になるまで励ましてくれたのだ。
真麻は兄の年齢を超えた時、兄が見ることができなかった景色や様々な体験などをして兄の分まで生きようと誓ったのだった。
それを忘れていた事を思い出した。
今日会った、あの天使のカール君に兄の面影を見た気がした。十歳位の子供の天使だったけど、子供の頃の兄の写真に似ている気がした。
「今朝ね、お兄ちゃんに似た子にあったの。お兄ちゃん心配してくれたの? 私、頑張る。お兄ちゃん見守ってね」
真麻の目が自然と潤み、ポロリと涙がこぼれたが、写真に向かって精一杯、微笑みかけた。
そんな真麻を、ふすまの陰から母親が、涙をエプロンで拭いながら見つめていた。
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