「猫に翼を与える」屋さん

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しかし続く彼女の言葉に、俺は驚愕してしまうのだ。 「でも、打ちそこなったらゴロになってアウトになっちゃうんだ」 なにっ、ゴロ? それは、雷の音ではないのか? はっ、まさかっ、注射を打ち損じると、天罰が下り雷に打たれるということなのかっ?! 〈天罰 雷 アウト〉と…、なになに、 「落雷による年平均被害者数は20人、うち死亡者数は13.8人であり、被害者の70%が死亡している」、と? おおおっ、なんとっ!! 年間にこんなにも、『ヴァス・エヴァール』の犠牲者がいるなんてーっ! そうっ、いま『ヴァス・エヴァール』の全貌が、真実がっ、明らかになる! 『ヴァス・エヴァール』とはっ、 口から水があふれ出して、ぴちゃぴちゃと音を立てている取っ手と注ぎ口をもつ人がっ― 実験に身を捧げて下さる猫の犠牲のもと―、 天罰を恐れず、死を賭して注射の技術を磨くことだったのかあっ! いまっ、俺はモーレツに感動しているっ!! …おおっ、そして、彼女から追伸だ! 「わかったー? 今週の土曜の朝8時に、いつもの河原の公園でやるから、用意してきてね」 なんとぉっ、「用意してきてね」だとぉっ?! うむむっ、これは生半可な覚悟では、用意は出来まい! 心して臨もう、いざっ! うぅむ、今までの考察からして、用意するものは、 「猫」「注射器」だな! いや待てよ、まず『口から水があふれ出して、ぴちゃぴちゃと音を立てている取っ手と注ぎ口をもつ人間』にならないといけないのだったな?! ううっ、どのような修行を何十年重ねれば、そのような境地に到達できるのだろう、想像もつかないっ! くそぉっ、今は諦めるしかないのかっ! しかし、しかぁしぃっ、いつかなって見せるぞっ! 「ぴちゃぴちゃ男に、俺はなるぅっ!」 はっ、しまった注射の薬剤を忘れる所だった! だ、だが…『猫に飛行能力を与える』薬剤などあっただろうか?! いやっ、俺は「当たって砕けろ」が身上っ! 俺は薬局を駆け回る。 なぜだ、何故協力してくれないんだ、薬剤師さんっ! 『猫に飛行能力を与える』薬剤をくれっ、という俺の切なる希望を、何故ッ、わかってくれないのだあっ! 単に、猫に飛行能力をっ、翼をっ、与えるだけではないかっ! くそおっ、どこかに「猫に翼を与える」屋さんは、無いのかあぁっ!! ふっ、真実を求める探究者に、現実は厳しいものだな… しかしその時俺は、ふとコンビニの棚を見て、衝撃を受けてしまうっ! …これだ! そうだ、飛行能力を、翼をっ、与えてくれる薬剤、いや、飲料があったじゃないかっ!! よしっ、これで…、いやっ、最後の最後にっ、天罰の雷対策をせねばなるまい! ふふふっ、神よ、科学の粋に震えるがよい!
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