プロローグ:微熱

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プロローグ:微熱

走る。走る、走る。 左胸に感じる熱い、根拠のない”何か”が私を蒸気機関のごとく走らせる。 こんなにも自分の推進力をまどろっこしく感じることは今までなかったし、 今後もなさそうだ。 息は切れて呼吸がままならず、鼓動は跳ね上がり、耳元で大きく脈打っている。上半身だけが前のめりになって、足が付いてこない。 角を曲がって赤レンガ倉庫が見えてきたあたりで雨が一段と強くなる。 強烈に吹き付けてくる風に乗った雨はもはや暴力的だった。 涙なのか雨なのか顔がびしょびしょだ。赤色のライトアップの、その向こう。 あそこにあいつがいる。 どんなに特別で大事な感情もいつか色褪せてしまう。 大好きな物語だって、いつかハッピーエンドを迎えてしまう。だから。 走る。走る、走る走る走る。 まるで羽ばたくように、彼女は暴風雨の中を進んでいった。
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