マスク

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 私の目の前にマスクがある。  シワが入っていて、見るからに新品ではない。  これは大好きな先輩が一日使ったマスクだ。  私は大好きな先輩のマスクが欲しいと神に願った。  来る日も来る日も願った。  しかし途中で気がついた。  神に願うなら、彼にねだればいい。  彼は渋った。 「汚いから嫌だよ」  でも男なんて女のパンティ見て喜んでるじゃん。パンティだって汚いんだよ。  それと一緒。  納得していない先輩だったが、半ば強引にもらってきた。  全身を覆うチリチリとした緊張感。  いけないことをしている感じがした。  両手でそれを持ち上げると、ノーズワイヤーが彼のかたちに曲がっている。  そのことが一段と気持ちを高揚させた。  ドキドキしながら顔に近づける。  浴槽でおしっこをした時のような、じんわりとしたいけない感覚が腰回りに広がった。  彼の爽やかな顔を思い浮かべ、歯磨き粉のミントの匂いを想像した。  大きく息を吐き、体中の空気を抜いて息を止めマスクを装着した。  もう後戻りはできない。  我慢していた空気を一気に吸い込んだ。  体中に迸る彼のにおい。 「ゔぉぇ」  指先をペロリと舐めて乾燥させたにおいと、内臓疾患を思わせるゴミだめのようなにおいがした。  もう一度。  私は深呼吸をした。 「ゔぉぇ」  私は勢いよくマスクを外し床に投げ捨てた。
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