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瑛士、出張と試飲会で疲れているのかな。まあこうして三つ揃えを目の前で見せてくれたんだもの。最後にもう一回目に焼き付けて、このままご飯食べてお風呂に入って寝てしまおう。
「終った?」
「うん」
聞かれて隣を振り向いて、そして息を呑んだ。
「コンタクト、……外したの?」
こちらがぼんやりとしている隙に、いつの間にか瑛士は眼鏡姿になっていた。三つ揃えのスーツに、眼鏡。え、なにこれ。なんのご褒美?
「この方が良いのかなと思ったんだけど」
にこやかな、大人の微笑み。あざとい。あざと過ぎる。そして私の性癖がすっかり把握されている。
「ぐぅ……」
なんだか手のひらで踊らされているような気持ちになって、一歩後に下がった。でも下がればその分全身くまなく見えて、余計にくらくらする。この眼鏡越しの笑みも、ちょっと腹黒い感じがスーツにたまらなく似合っている。この人は一体どこまで私のツボを刺激するつもりなんだ。
視覚の刺激に呼吸困難になりそうで、必死に息を整える。そんな私を見つめ、瑛士が両手を広げて小首をかしげた。
「来てくれないの?」
「……負けた」
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