【書籍化お礼】初恋未満の淡い恋情のことなど

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「中学時代の同級生との手紙の(たぐい)なんてとっくに捨ててもおかしくないのに、なぜか捨てられなかったんだ。暑中見舞い葉書から始まった彩乃とのやり取りは、全部きちんと残して実家に取っておいてある。それが捨てられるかもしれないってなったので、今回持って帰った」 「え……」 「誕生日プレゼント選びがきっかけで対人スキルを上げようと思ったのも、空想上の遠藤さんと会話をシミュレーションしたのも、文通が終わってから一年以上経ってからだ。実際の彩乃に再会するまで、これが恋になるとは思いもしなかった。それなのに、捨てずにきちんと残していた手紙の束をみて、やっぱり俺にとって彩乃は最初から特別な存在だったのかなって再認識して。十七年も前のものをずっと保管して、あまつさえ身近に置いておこうとしているなんてちょっと重すぎて、彩乃に言ったら引かれるかなって思ったら言えなかった」 「あ、いや……」  俺の告白を聞いてどんな反応をするのか、怖くはあったが知りたかった。様子を窺うために抱きしめていた腕を外し、体を離す。けれど彩乃はうつむいたままで、その表情を見ることは出来ない。 「彩乃?」
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