番外編1. 春の試飲会

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 そして次の週の試飲会。会社から五分で着ける場所だからと油断をしていたら、終業間際にねじ込まれた残業で三十分ほど遅刻となってしまった。お陰でお店にたどり着いたら、蔵元からの説明が終わっていた。お客さん達が試飲をしようと、法被(はっぴ)を着た営業さんからお猪口を受け取っている。 「遅れてすみません」  そう言いながらお店に入って、私も試飲の列に並んだ。お酒の紹介が書かれたチラシももらい、簡単な解説を聞きながら最初の一杯を注いでもらう。早速それを口にすると、お酒の香りがふわりと鼻から抜けていった。最初の一杯目らしい、軽めでスッキリとした味。うんうんとかうなずいて店内を見渡すと、普段は入っても四、五名くらいのお客さんが、その倍の十名以上はいた。角打ちで会えば話す常連さんもいるけれど、見知らぬ人も結構いる。普段見ない光景に、それだけでわくわくしてしまった。 「どうも、ご無沙汰しています」 「ああ、鳴瀬さん」  今井さんの声がすぐそばで聞こえたので、反射的に振り向いた。そのままなんとなく、お酒を飲みつつ会話を耳にする。 「最近お見掛けしなかったから、どうされたかなと思っていたんですよ」
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