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真顔のままそう訊ねてみる。彩乃の頬が見る間に上気して、うろたえたように肩が左右に揺れていた。けれど見開いた目はそのうち徐々に細くなり、満面の笑みへと変わってゆく。彼女の方から俺に近づくと、唇と唇が一瞬だけ合わさる。その感触に浸る間もなく、次は額をこつんとぶつけられた。
「そうだったね。ごめん」
もう言葉はいらない。あらためて俺からキスをすると、絡み合う指も吐息も次第に熱を帯びてゆく。そうしてようやく俺たちは、愛を確かめ合う行為に没頭した──。
ちなみにだけれど。
自分だけではない、彩乃も過去の手紙を全部保管しているということは、ポストカードになりふり構わず気持ちを書いたあの恋文も、きちんと取っておいてあるということだ。
うっかり発掘してしまったそれを見て、不意打ち食らって俺が羞恥の呻き声をあげるのは、それから数年後の話……。
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