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「実は転勤で四月から大阪なんです。週明けに引っ越しなんで、その前にと思って顔出しました」
そうか、春だものね。転勤大変だぁ。とか見知らぬ人へ心の中でうなづきつつ、次のお酒をどれにしようか選び始める。リストに書かれているのは本醸造と、純米酒二種類、そして事前に聞いていた秘蔵の大吟醸の合計四種類。今、飲んでいるのが本醸造のだから、次は純米酒の一つ目やって、えーっと、
「彩ちゃん」
「へ? はい」
急に声をかけられ、慌てて振り向く。今井さんが立ち話の相手、鳴瀬さんと一緒にこちらを見ていた。
「この方、雑誌の編集をやっていて、彩ちゃんのような女性客に話を聞きたいそうですよ」
「え?」
間の抜けた顔で聞き返すと、鳴瀬さんがにこやかな笑顔でいやいやと手を振った。
「取材とかではないんです。来月から自分は営業に異動ですし。それに聞きたいのは、自分というより」
「あの、私です」
鳴瀬さんの横に立つ女性がそう言って、そうっと手を挙げた。
「突然すみません。お酒、興味はあったんですがよく分からなくてと話したら、いい人がいるよとおっしゃってくれて……」
「いい人」
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