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BGMのジャズが、もう何曲目か解らなくなるほど時が過ぎると、廉はさらに酔いが回り省吾に絡むようになっていた。
「ね、甲斐さんも、僕はもうクビだと思ってますね。だから最後に、こんな送別会してくれてるんですよね」
「意外だな。三好は酔うと絡み癖があるのか」
陽気になって歌い出す、と思っていた省吾だ。
それほど、普段の廉は明るかった。
今回の失敗がある前は。
「過ぎたことを悔やんでも、仕方がない。それより、もっと前を向け」
「職探し、ですか?」
「だから、クビにはならないと言ってるだろう。経営会議で決まったんだ。三好は今まで通り、俺の下で働いてもらうぞ」
「マジですか!?」
「嘘をついてどうなる」
やった、と廉は省吾の首に抱きついた。
「よかった! ありがとうございます、甲斐さん! みんなみんな、甲斐さんのおかげです!」
アルコールの匂いに混じって、廉の香りが省吾の鼻をくすぐった。
柔らかい髪の、ふわりと甘い香り。
省吾は、それを深く吸った。
ああ、まるで媚薬だ。
時刻も遅くなり、ジャズの調べもムーディーなものに変わっている。
こくり、と省吾の喉が動いた。
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