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暑い。
いや、暑いを通り越して、熱い。
三好 廉(みよし れん)は、夏空の下、草むしりをしていた。
「ヤバい。何か、頭もうろうとしてきた」
だが、廉は休まなかった。
自分自身を傷めつけ、しでかした大失敗をそれで揉み消そうとしていた。
汗が筋になって、額から鼻筋へ落ちる。
女子社員が可愛い、とはしゃぐその顔立ちも、すっかり日に焼けてしまっていた。
「おい、ちゃんと休んでるか?」
ふいに声が聞こえ、廉が顔を上げると、そこには上司の甲斐 省吾(かい しょうご)が立っていた。
甲斐は廉が所属する課の、係長だ。
廉の失敗を一緒になって治めてくれた恩人でもある。
「冷たッ!」
省吾が、冷えた経口補水液を廉の頬に当てたのだ。
熱い体には、それがひどく心地よかった。
「反省するのはいいが、根を詰めすぎるな。体を壊すぞ」
「いいんです、壊しても。僕、どうせクビですから」
またそんな、いじけたことを言う。
「とにかく、木陰で休め」
「もう少し、がんばります」
「私まで熱中症にさせるつもりか?」
あ、と廉は気づいた。
この暑い中、省吾はスーツ姿で立っているのだ。
そこでようやく、廉は木陰に入り体を休めた。
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