11.栞

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11.栞

 図書館で借りた本に何かが挟まっていた。前に借りた人が栞にしていたものだろう。  そう思って抜き出し、ひゅっと自分の喉の奥が鳴るのを感じた。  それは名刺ぐらいの大きさのカードだった。  巨大怪獣と、それを倒す紫色の巨人。それが争っている写真のカード。  流行っていた。お菓子のオマケについていて。何パターンもあって。  小学生の頃、男子たちはそれを持って交換していた。学校に持ってきて、先生に怒られてた。  無邪気に、彼らは、遊んでた。  ぐっとそれを握りつぶして、ゴミ箱に叩きつける。  気持ち悪い。  本を机に置くと、自室のベッドに倒れ込む。  めまいがする。  思い出す。  倒れてくるタンス。叫ぶお父さん。目の前に落ちてくる、紫色の足。  潰れる。潰される。重い柱。  動かないお母さん。  地面が、揺れる。 「許さない」  私は怪獣も、ヴァイオレットも、許さない。 「おはよー!」 「おはよ」  高校の教室で、友人に笑いかける。  多分、普通に笑えた。  昨日は、あのあと嫌な光景が思い浮かんで、消えなくて、眠れなかった。  教室は今日もわいわいと賑やかだ。  何も無かったみたいに。  私たちが小学生のころ、この世界には頻繁に巨大怪獣が現れて、街を破壊した。それを紫色の巨人ヴァイオレットが退治していた。  それはほんの、一年ぐらいのこと。突然あらわれなくなり、しばらくしたら皆忘れた。あんなに、大変だったのに。  皆が忘れたから、あるいは忘れたふりをしているから。私も言わないでいるけれど。  私の家は破壊された、怪獣に。柱に潰されたときの後遺症で、私の足は今も少し動かない。  お母さんは殺された、ヴァイオレットに。踏み潰されて。多分それは事故で、悪気はなくて。だってヴァイオレットは正義のヒーローだから。  だけど、私は許せない。  怪獣も、ヴァイオレットも、そのことを忘れている皆も。  だから、 「復讐しないか? 君の不幸を作った、すべてに」  黒いマントの男にそう言われた時、迷わずのその手をとった。  怪獣も、ヴァイオレットも、今はいない。  だから、私は人間に復讐する。  あんな惨事をなんで、忘れたの?  許せない。  だから、思い出させてあげる。 「さあ、行きなさい」  命じた手下が、街に繰り出す。  今度は私が、怪獣になる。巨大化は出来ないけど、化け物を操って。  復讐だ。
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