4人が本棚に入れています
本棚に追加
11.栞
図書館で借りた本に何かが挟まっていた。前に借りた人が栞にしていたものだろう。
そう思って抜き出し、ひゅっと自分の喉の奥が鳴るのを感じた。
それは名刺ぐらいの大きさのカードだった。
巨大怪獣と、それを倒す紫色の巨人。それが争っている写真のカード。
流行っていた。お菓子のオマケについていて。何パターンもあって。
小学生の頃、男子たちはそれを持って交換していた。学校に持ってきて、先生に怒られてた。
無邪気に、彼らは、遊んでた。
ぐっとそれを握りつぶして、ゴミ箱に叩きつける。
気持ち悪い。
本を机に置くと、自室のベッドに倒れ込む。
めまいがする。
思い出す。
倒れてくるタンス。叫ぶお父さん。目の前に落ちてくる、紫色の足。
潰れる。潰される。重い柱。
動かないお母さん。
地面が、揺れる。
「許さない」
私は怪獣も、ヴァイオレットも、許さない。
「おはよー!」
「おはよ」
高校の教室で、友人に笑いかける。
多分、普通に笑えた。
昨日は、あのあと嫌な光景が思い浮かんで、消えなくて、眠れなかった。
教室は今日もわいわいと賑やかだ。
何も無かったみたいに。
私たちが小学生のころ、この世界には頻繁に巨大怪獣が現れて、街を破壊した。それを紫色の巨人ヴァイオレットが退治していた。
それはほんの、一年ぐらいのこと。突然あらわれなくなり、しばらくしたら皆忘れた。あんなに、大変だったのに。
皆が忘れたから、あるいは忘れたふりをしているから。私も言わないでいるけれど。
私の家は破壊された、怪獣に。柱に潰されたときの後遺症で、私の足は今も少し動かない。
お母さんは殺された、ヴァイオレットに。踏み潰されて。多分それは事故で、悪気はなくて。だってヴァイオレットは正義のヒーローだから。
だけど、私は許せない。
怪獣も、ヴァイオレットも、そのことを忘れている皆も。
だから、
「復讐しないか? 君の不幸を作った、すべてに」
黒いマントの男にそう言われた時、迷わずのその手をとった。
怪獣も、ヴァイオレットも、今はいない。
だから、私は人間に復讐する。
あんな惨事をなんで、忘れたの?
許せない。
だから、思い出させてあげる。
「さあ、行きなさい」
命じた手下が、街に繰り出す。
今度は私が、怪獣になる。巨大化は出来ないけど、化け物を操って。
復讐だ。
最初のコメントを投稿しよう!