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03.落葉
だん、っと足を踏み込むと、ガサリと落ち葉が音を立てた。少し滑りそうになるが、着込んだ特殊スーツが防いでくれる。
人の筋力を強化してくれる特殊なスーツ。使い終わったあとに疲れがどっとでるが、怪我からも身を守ってくれる特別なものだ。
左からきた剣を、飛び退いて避ける。
ガサリ。音がする。
自分の剣を振るう。生身では持てないこの重たい剣も、スーツのおかげで持てる。
目元を隠す仮面が、少しだけ視野を狭めているが、慣れてしまえば問題ない。
「なんでですか!」
相手の剣を、受け止め、叫ぶ。
「なんで、あなたが僕を攻撃してくるんですか!」
このスーツは、あなたが僕にくれたのに。
半年前の謎の地割れで街がひとつ消えて、巻き込まれて死にかけた僕を助けてくれたのはあなただったのに。
地割れで地獄から化け物たちが現れ、それを退治する。そのやり方を教えてくれたのは、家族を失って希望も無くした僕に生きる道を示してくれたのはあなただったのに。
「なんで裏切ったんですか、マスター!」
マスターは顔色を変えず、
「裏切ってない、最初から化け物側だったんだよ、俺は」
淡々と答えた。
最初から?
驚いた隙をつかれた。剣を叩き落とされ、体勢を崩した背中に鈍い痛みが走る。切られても怪我はしないが、多少の衝撃はくる。
がんっと次はみぞおちに衝撃。膝が叩き込まれたのだ。
衝撃を吸収しきれず、ガサリと地面に倒れこんだところを、さらに蹴りと刃がとんでくる。
「直接怪我はしなくても、連続の衝撃はつらいし、そろそろ体力の限界だろ?」
マスターの言葉のとおりだ。
強化された筋肉に、体力がついていかない。
衝撃がジワジワときいてくる。
「失敗したな。もっと体にダメージがいかないものにすれば良かった」
マスターの呟きがこの特殊スーツへの評価だと気づくのに時間がかかった。なんだって、そんなことを。
地面に倒れこんだまま、動けない。頬に落葉が当たる。
「ケン、悪かったな。中途半端なスーツで」
「……謝るぐらいなら、なんで」
掠れた僕の声に、マスターはふっと笑う。大昔の顔の怪我が引き攣るからと、マスターの笑った顔はいつも半分泣いているみたいだ。
「止めに来てくれ、ケン。そのためにお前に託したんだ。黒衣の騎士を」
黒いスーツで化け物を退治する。だからいつのまにか、そう呼ばれていた。新聞記事を見て、かっこいいじゃないかと、マスターは笑っていたのに。
「地獄で待っている」
マスターはそれだけ言い残して、僕に背を向ける。
追いかけなきゃいけないのに、体が動かない。
「くそっ!」
頭が追いつかない。
頼りにしてたマスターが敵だなんて。
敵なのに、僕にトドメを刺さない。止めて欲しいと、言う。
マスターには借りがある。
何が何だかわからないけど、でも……、
「絶対、あなたを止めてみせるっ」
掠れた声で、それでも出来るだけの大声で叫ぶ。マスターに、届くように。
マスターが望むのなら、止めてみせる。
目が覚めたら、鍛え直しだ。
世界は守る。それが黒衣の騎士の使命だ。そして、僕の世界はマスターが中心なのだ。
鈍い痛みと疲労で意識が遠のくなか、それだけはハッキリと誓った。
地獄で待っていてください。
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