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09.一つ星
「名前は?」
「特にない」
「ない? なんだそれ。じゃあ、勝手に決めるぞ。そうだな……、ポラリスな」
そう決めたのは、初めての変身を解除したあと。疲れて倒れ込んだ俺の目に星がうつったから。それが北極星なのかどうかわからなかったけど、知ってる星の名前がそれぐらいしかなかったのだ。
でも、結果としてその名前は正しかったと思う。
ポラリスは俺の体の中にしばらく住まうことになった。
化け物はあれで終わりではなくて、本体みたいなのがいて、それを倒さなければいけないらしい。
「すまないな」
ポラリスがそう謝る。
まあ確かにろくに説明もされなかったし、なんかこう騙し討ちみたいなところはあるかもしれない。でも、
「あんたのおかげで助かったから。ありがとう」
ポラリスが居なければ俺は死んでたし、この街は壊滅していた。
ギリ残された自分の家の離れでそう答える。
親戚どもは生きていたが、母屋は壊滅していたので大事そうなものだけ引きずり出して、どこかに消えていった。まあ、あの人たちは大丈夫だろう。死ななさそう。
「なあ、あの化け物はなんだ?」
ポラリスの姿は見えないから、独り言みたいになってしまう。
「化け物の産みの親は魔神アングリド。何度倒されても形を変えて復活する厄介なやつだ。化け物はあれから生まれている」
「魔神ねぇ……」
壮大な話なことで。
「……ポラリスは何なんだ?」
「私はアングリドと、そこから派生するものを倒すための存在。それ以上でもそれ以下でもない」
「だから、名前もない?」
「ああ」
変な話だ。倒すために存在するということは、倒した後ポラリスはどうするのか。自由になれるのか。ああ、でも、復活するんだっけ?
「二人とも、地球生まれなのか?」
「質問の意味がわからない」
「あー、いや、よくあるから。テレビとかだと。宇宙からきたってことが」
ポラリスは少し黙り、
「その答えは持っていない」
そう答えた。
まあ確かに、どこ生まれかなんて自分じゃわかんないかもな。こんな壮大な存在じゃ。教えてくれる母親もいなさそうだし。
そこからいくつか質問を重ねてわかったことは、化け物には本体がいていずれそれを倒さなきゃいけないこと。
ポラリスだけでは化け物を傷つけることはできても倒すことはできないこと。人間の力を借りる必要があるらしい。
少なくとも化け物を倒すという点においては、ポラリスを信じていいってことだ。それがわかっただけ上出来だ。
「わかった、よろしく、ポラリス。俺はなんにもわかんないから、頭脳は任せた。動くのは得意だけどな」
俺が笑って生きていくためにと化け物たちを退治しなきゃいけないことは間違いないのだから。
「よろしく、咲太郎」
頭の中で、声がした。
彼はポラリス。北極星。夜空で唯一動かず、人を導いてくれる羅針盤のような星。
戦いの仕方も、運命の動かし方もよくわからない。ただ、笑うことだけが得意な俺を導いてくれる、大切な相棒だ。
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