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01.門
あの日、開かれたのは、地獄の門なのだ。
「待て! 悪党共!」
大声をかけると、
「なんだ!?」
大男が左右を見回す。
やがて、木の上にいる俺に気づいた。
「なんだ、お前は!」
「名乗るほどのものではない。ただの、通りすがりの風来坊さ」
言って、木から飛び降りる。
「そのお嬢さんは嫌がってる。手を離してやれ」
大男が誘拐しようとした少女を指さす。
「うるさい! この女はアングリド様の生贄なのだ!」
「魔神アングリド、その復活を許すわけにはいかないんでな」
背中のギターをおろすと、中から拳銃を取り出した。
「止めないというのならば、武力行使で止めさせてもらおう」
魔神アングリド。邪神であるそいつを甦らせるために、各地の悪人共が水面下で動き出したのを知ったのは、両親が殺され、妹が連れ去られたあとだった。
瀕死の重症を負った俺を助けてくれた黒いマントの男が教えてくれた。
怒りに震える俺に、マントの男は力を分けてくれた。怪我を治し、少し丈夫になるように改造してくれて、そしてこの電気銃を与えてくれた。
男もアングリドに因縁があるようだ。詳しいことは知らないが、知る必要も無い。俺にとって大切なのは、戦う力があることだから。
それ以来、顔の大怪我を隠すためにも覆面を着け、俺はアングリド配下の悪人たちを追っている。
「答えろ。攫った人間をどこに連れて行っている」
戦闘の末、ボロボロになって大男に銃をつきつける。
「お、俺が知ってるのは、取引場だけでその後のことは……」
やはりこいつも、末端か。
マントの男が言うには、生贄として攫った人間はどこかに囚われてるはずだと、すぐには殺されていないとのことだ。数が揃ってから復活の儀式が行われる。
だから、まだ、妹が生きている可能性はある。
その可能性だけを信じて、俺は戦っている。
場所を知らない奴に用はない。
再度銃を撃って気絶させると、縄で縛る。
怯えた少女の方を見ると、さらに怯えられた。まあ、こんな覆面男も怖いよな、気持ちはわかる。
「もうすぐ警察が来る。安心しろ」
大男の犯行は誘拐。なら、俺がどうこうするよりも、司法の手に委ねた方がよい。
罪状、未成年略取。
そう書いた紙を大男の頭に貼る。
パトカーの音が近づいてくる。
「ほら、もう大丈夫だ」
少女に言うと、その場を立ち去る準備をする。覆面をつけて違法改造銃持った男もまあまあの不審者な自覚はあるのだ。警察には絡みたくない。
「あ、あの」
震える声で少女が口を開く。
「ありがとう、ございました」
「いや、ついでだ」
「あとあの、お名前は……?」
「名乗る名などない」
名前はあの日、地獄を見た時に捨てたのだ。
「まあ、警察に聞かれたら、ハーメルンの笛折男と答えておけばいい」
「ふえおり……?」
「なんか、誘拐阻止しまくってたら警察はそんなあだ名をつけたらしい」
どうなんだそれ、と思ってるんだけど。
いよいよ、時間が無い。サイレンが止まった。
「じゃあな!」
少女の返事を待たずに、その場を立ち去る。
翌日の新聞に、元気そうな少女の姿があって安心した。
また出た! ハーメルンの笛折男って見出しはどうかと思うが。俺が悪者みたいじゃないか。
いや、悪者か。
妹を助ける。
そのために、見知らぬ少女たちを囮にしている部分もあるのだから。
「待ってろよ。サチ。兄ちゃんが絶対助けてやるからな」
一枚だけ残った家族写真に、そっと誓った。
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