狭魔狩人鈴音

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 自分は、理想の人生を歩めなかった母の代理なのだ。あの人の思い通りに動いて、思い通りの成績を挙げて、思い通りの進路を行き、思い通りの就職をして、思い通りの結婚をする。  全て母の思い通り、思い通り、思い通り。  少しでも自分の意志を告げようとすれば、 『あなたは私の言うことだけ聞いていればいいの!』  と、平手さえ飛んでくる。  自分は母のお人形さんだ。毒親、という言葉が最近は出てきているが、中学三年生の小娘には、親に反抗する術も、独立して逃げ出す術も無い。  うつむいて地面の小石を蹴り、長い溜息を吐き出す。冷たい空気に白が溶けてゆく。憂鬱な家路への歩を進めようとして、美優里はふっと違和感を覚えた。  影が、地面に映っていない。太陽はほぼ顔を隠したとはいえ、そこにあるのに。月は空に浮かんでいるのに。まるで美優里とその周囲だけが、世界から弾き出されたように、光を受けていない。  学生鞄を探り、スマートフォンを取り出す。画面は真っ暗で、何度タップしても反応を示さない。  じわり。恐怖という黒い染みが美優里の胸に広がる。その思いを更に煽るかのように、すうっと冷たい感触が首筋に触れた。
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