狭魔狩人鈴音

3/9
前へ
/9ページ
次へ
『哀れ、哀れ。踊らされるこども』  男なのか女なのかわからない、高くも低くも聞こえる声が、耳元で囁く。 『お前が抱くは未来への絶望。その絶望をお前ごと喰らえば、我が力は増そうぞ』  悲鳴は喉でつかえて出なかった。  逃げなくては。本能が警告しているのに、身体はすくみあがり、スマートフォンを握り締めた手がかちこちに固まる。  しゅうしゅうと。蛇のような音を出す熱い吐息が耳朶(みみたぶ)に触れ、ざらりとした感触が首筋を撫でる。 (誰か)  祈るように願っても、聞き届ける者は誰もいない。 (誰か助けて)  母の呆れた顔が。父の無関係を装った背中が。担任の、クラスメイトの冷たい視線が。脳裏を横切っては消えてゆく。  誰も自分を助けてくれない。胸に滑り込んだどす黒い絶望が、美優里を呑み込もうとした、その時。  しゃん、しゃん、しゃん、と。  夕暮れ時には不釣り合いな、祭りでも始まるかのような鈴の音が鳴り響いた。  美優里の首筋に触れていた熱が、弾かれたように余所を向くのがわかる。そして。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加