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『哀れ、哀れ。踊らされるこども』
男なのか女なのかわからない、高くも低くも聞こえる声が、耳元で囁く。
『お前が抱くは未来への絶望。その絶望をお前ごと喰らえば、我が力は増そうぞ』
悲鳴は喉でつかえて出なかった。
逃げなくては。本能が警告しているのに、身体はすくみあがり、スマートフォンを握り締めた手がかちこちに固まる。
しゅうしゅうと。蛇のような音を出す熱い吐息が耳朶に触れ、ざらりとした感触が首筋を撫でる。
(誰か)
祈るように願っても、聞き届ける者は誰もいない。
(誰か助けて)
母の呆れた顔が。父の無関係を装った背中が。担任の、クラスメイトの冷たい視線が。脳裏を横切っては消えてゆく。
誰も自分を助けてくれない。胸に滑り込んだどす黒い絶望が、美優里を呑み込もうとした、その時。
しゃん、しゃん、しゃん、と。
夕暮れ時には不釣り合いな、祭りでも始まるかのような鈴の音が鳴り響いた。
美優里の首筋に触れていた熱が、弾かれたように余所を向くのがわかる。そして。
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