狭魔狩人鈴音

4/9
前へ
/9ページ
次へ
「その少女から離れろ、狭魔(はざま)」  全ての感情を殺したような、何の抑揚も無い女声が、空気を斬り裂いた。  この声の主は、敵ではない。そう信じて、美優里は声の方を向き、息を飲んだ。  夜の色を写し込んだ長い黒髪と、真冬なのに夏服のセーラーが、風も無いのになびいている。瞳は昼の青空を模したような青。  昼と夜の色を持つ、美優里よりひとつかふたつ年かさであろう、少女だった。その手には、ぎらりと輝きを放つ日本刀が握られている。素人の美優里でもわかる。模造刀などではない、本当に切れる真剣だ。 『狩人!』  美優里の首筋に触れていた何かが、憎々しげに吐き出して、手を離す。正体を見るのはまだ恐ろしかったが、興味が勝って、少女の青い瞳が見すえる、己の脇に立つ存在を視界に映した。  全身が黒い鱗に覆われた、上半身は人間の女、下半身が蛇の、この世にあらざる化け物。気を失わなかったのは偉いと、自分で自分を褒めたくなる。そんな思いさえ浮かぶ、おぞましい姿だった。 『邪魔をするか狩人! 此世(このよ)の昏き部分を喰らう、我ら狭魔の摂理を歪める異端者が!』
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加