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「その少女から離れろ、狭魔」
全ての感情を殺したような、何の抑揚も無い女声が、空気を斬り裂いた。
この声の主は、敵ではない。そう信じて、美優里は声の方を向き、息を飲んだ。
夜の色を写し込んだ長い黒髪と、真冬なのに夏服のセーラーが、風も無いのになびいている。瞳は昼の青空を模したような青。
昼と夜の色を持つ、美優里よりひとつかふたつ年かさであろう、少女だった。その手には、ぎらりと輝きを放つ日本刀が握られている。素人の美優里でもわかる。模造刀などではない、本当に切れる真剣だ。
『狩人!』
美優里の首筋に触れていた何かが、憎々しげに吐き出して、手を離す。正体を見るのはまだ恐ろしかったが、興味が勝って、少女の青い瞳が見すえる、己の脇に立つ存在を視界に映した。
全身が黒い鱗に覆われた、上半身は人間の女、下半身が蛇の、この世にあらざる化け物。気を失わなかったのは偉いと、自分で自分を褒めたくなる。そんな思いさえ浮かぶ、おぞましい姿だった。
『邪魔をするか狩人! 此世の昏き部分を喰らう、我ら狭魔の摂理を歪める異端者が!』
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