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しゅうしゅう。女の顔から蛇の長い舌をちろちろ出して、狭魔とやらが忌々しげに怒鳴る。対して少女は、すっと目を細め、日本刀を腰だめに構える。
「その為に人を喰らう貴様らに、正しさは無い」
青い瞳に、一瞬、昼と夜のあいだの夕暮れ時を示す、紅い光が横切った気がした。しかしそれは一瞬で去り、しゃん、と鈴の鳴る音と共に、少女のローファーが土手の地面を蹴る。同時に、『シャアアアアッ!』と奇声をあげながら、狭魔が少女に向かって飛びかかる。
交錯。
勝負は、一瞬だった。
少女と狭魔の位置が入れ替わる。刀を振り抜いた少女の頬に、つっと一筋の傷が走り、血が流れる。
直後、狭魔が、硝子を引っ掻くような悲鳴をあげてのけぞったかと思うと、その胴が真っ二つに泣き別れた。血は流れず、代わりに紅の粒子が花びらのように舞って、狭魔を虚空に還してゆく。
数秒後には、そこに異形がいたなど嘘のように、紅は消えて、後には何も残らなかった。
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