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あっという間の転換劇に、美優里が呆然とへたりこんでいると、青い瞳がこちらを向いた。頬を伝う血を手の甲で拭い、むき身の日本刀を手にしたまま、少女が歩み寄ってくる。
こんな異様な光景を目撃した自分も、口封じに斬られるのではないか。美優里はひくっと喉を鳴らしたが、少女はこちらの前に膝をつくと、得物を持っていない方の手を、そっと美優里の肩に置いた。
「深呼吸して」
戦いの時には何ら感情の乗らなかった声に、わずかばかりだが思いやりがこもっている気がする。
言われるままに息を吸う。時々つっかかって、変な音が漏れる。だが、「落ち着いて」とまた声をかけられると、乾ききった岩に清水が染み込むように清涼な気分になってきて、深く、深く、息を吐き出す。
すると、あんなに強張っていた身体が、やっと自由を取り戻して、足が言うことを聞いてくれた。少女の差し出した手を取って、立ち上がる。
「あ、あの、ありがとうございました」
制服のスカートについてしまった草を手で払い、深々とお辞儀をする。
「いや」
首を横に振る気配に顔を上げれば、少女は相変わらずの無感情で、こちらを見ていた。
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