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明るくなった画面を、少々驚いて見やる。着信は、父からだった。まだ少し固まっている指でタップして、「もしもし」と応えをする。
『美優里、帰りが遅いようだが大丈夫か?』
電話の向こうの父の声は、心配と労りに満ちていた。
『母さんに叱られるのが怖くて、帰るのを躊躇っているなら、心配しなくていい。今日は父さんも一緒に怒られてあげるから』
美優里が驚きに目を見開く一拍を置いて、父は言った。
『今まですまんな。これからは母さんが何か言った時は、父さんが美優里を助けてあげられるようにするよ』
これは、あの少女が狭魔を倒してくれたおかげなのだろうか。それともただの父の心変わりなのだろうか。いずれにしろ、先程まであんなに鬱屈していた気分が去り、雲間から月が顔を出すかのように、ほのかな希望の光を心に灯す。
「大丈夫。今から帰るよ」
『そうか、気をつけて』
短いやり取りをして、終話のアイコンをタップする。
もう、一人ではない。母の小言も今なら怖くなさそうだ。
笑みを浮かべて歩き出す美優里の影は、地面にしっかりと映し出されていた。
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