狭魔狩人鈴音

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 あの娘はもう大丈夫だろう。  家路を辿る少女の背を見送りながら、鈴音(りんね)は青い瞳を細めた。  人の暗い感情に、蝿が腐肉にたかるごとく寄ってくる、昼と夜のあいだに現れる狭魔。かつて自分の血族が、パンドラの箱を開けて世に解き放ってしまった奴らを滅ぼすまで、鈴音の戦いは終わらない。  狭魔の王と魂が繋がってしまったゆえに、人の理を外れて数百年を生きる自分もまた、世界から見れば異端なのだろう。  それでも。 「それでも、お前を倒すまで私は戦い続けるよ、揺音(ゆりね)」  狭魔の王に取り憑かれ、敵味方に分かたれてしまった双子の妹の名をくちびるから爪弾く。  次の瞬間、一陣の風が吹き、しゃん、しゃん、しゃんと鈴が鳴く。  それが去った時には、黒髪のセーラー服の少女の姿は、もうどこにも見当たらなくなってきた。  狭間の時間は過ぎ、夜がやってくる。  そしてまた明日の昼と夜のあわいには、新たな狭魔を、狩人が斬るのであろう。
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