5人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんて言ってました?」
え?といかにも面倒くさいという顔をしておじさんがこっちを向いた。
「バカかお前は。あんなんでわかるわけなかろう」
……まあそうですよね。
三人(二人と一匹)で車座になる。中心にはもちろんアタッシュケース。
おじさんと僕は会話を交わすこともなく黙っている。うるさいのは日本語を話せない一匹だけだ。
「ニャア!ニャア!」
「なんだお前は!中身が何だったとしてもお前には猫に小判だぞ!絶対やらんからなっ!」
「フーーーっ!」
喧嘩しているようだが、どうやらおじさんに懐いたらしい。さっきからずっとべったりくっついている。猫好きの僕は嫉妬しないでもない。
「なぁ、肉まんでも食べるか。寒くて敵わん」
確かに、寒い。それに落とし主は一向に現れる気配を見せない。これは長丁場になりそうだ。
「……おじさんの奢りなら」
「……チッ」
「ニャア!」
「あぁもう!分かったよ!三つ買ってくるから待ってろ!」
「あざっす!」
「ニャー」
猫とこっそり目配せし、にんまり。おじさんはのそのそ立ち上がると、財布の中身を確認し苦い顔をした後、夜の闇に溶けていった。
「お酒は買っちゃダメですよ!おじさん酔うと面倒だから」
「うっせぇ!」
暗闇から怒声が返ってくる。やがて彼の足音も聞こえなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!