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☆
「おーーーーい」
どれくらい経った頃だろう。おじさんがのしのしと駆け足し(?)で帰ってきた。
「すまんの。肉まんが売り切れであんまんしかなくて」
「別にいいっすよ」
「や、それで隣の駅のコンビニまで走った」
彼は誇らしげな顔で戦利品を差し出す。何なんだ、この変なじいさん。僕は苦笑しながら肉まんを受け取り、かぶりつく。
「やや!猫は?猫がおらん!」
ひとつ余った肉まんを持って、辺りを見回すおじさん。
「居なくなりましたよ。アタッシュケースと一緒に」
「ふーーーん…気まぐれなやつじゃ……って何だってぇ!!!」
「それがですね──────」
僕は事のあらましを説明した。おじさんは首を捻ったり、深く頷いたりしながらそれを聞いていた。信じているかは分からない。ただ、最後まで口を挟まず、黙って聞いてくれた。
「──────てな感じ…です…」
おじさんは暫く考えた後、重い口を開いた。
「……そうか」
それだけ言うと、ケラケラ楽しそうに笑いだした。
「そうか、そうか」
おじさんの行動は理解不能だったが、僕もつられて笑ってしまう。何だか長い夢を見ていたようだ。滑稽なおじさん2人が少女の掌で転がされる夢。
「さぁ、兄ちゃん。こんな日は飲もう。ほれ、酒も買ってきた。宴じゃ。この先に見晴らしのいい公園があるぞ」
「もう朝ですよ」
「構わん、構わん」
早起きの郵便バイクが、訝しげに僕らを見る。僕は立ち上がると、おじさんと一緒に朝日に向かって歩き始めた。
宴会は、昼まで続いた。
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