ブラック・ボックス

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僕はしゃがんだまま3メートルくらい飛び上がり、ギリギリと首を回す。見ると、50,60くらいのおじさんが、仁王立ちしながらこちらを覗き込んでいた。 「こんな時間にこんな所で、何かいい事でもあるのかね?」 興味深そうに僕の顔を覗き込む。僕は反射的にアタッシュケースをサッと隠した。おじさんはそれを見逃すはずもない。 「アッ!今何か隠した!」 「いやいやいや、隠してないッ!」 「じゃあ、後ろのソレは何だ!」 「ギクッ!」 冷や汗がつーっと首筋を伝う。 隠そうにも、もう遅い。おじさんがアタッシュケースをひったくる。 「何だ、これ。いやに重いな」 ケースをガコンガコン振る。ああ、5000万円をそんなに雑に扱って…。 「かかか返して下さいよそれ」 「これ、兄ちゃんのか?」 「い、いや……」 おじさんはニヤリと笑うと、アタッシュケースを高く掲げて言った。 「じゃあ、俺が代わりに交番に届けといてやるよ。なぁに、心配するな。あばよ」 ひらひらと手を振り立ち去ろうとするおじさん。あまりの急展開に、あ然とする。しかし、取り返す口実も見つからない。僕はどうする事も出来ずにその場に立ち尽くす。 が。すれ違いざまの彼のセリフを僕は聞き逃さなかった。 「へへ、これで久々に一杯やれるぜ…」 ……! 「ちょほっと待ったぁ!!」 猛ダッシュして彼の前に回り込む僕。息を切らして進路を断つ僕の気迫に押され、おじさんはぎょっとして立ち止まる。 「何だよ、通れないじゃないか」 「おじさん、それ届ける気ないでしょ」 「はて?なんの事かな」 そっぽを向いて口笛を吹き出すおじさん。足で高速でビートを刻んでいるところを見るとどうやら図星らしい。 「とぼけないで下さい!あと、夜に口笛はダメっ!」 「いやいや本当に届けようと…」 「そっちに交番はありませんよ。駅と逆方向ですから。それに、今の言葉。絶対その中身使うつもりでしょ」 怒りに任せて一気に捲し立てる。すると、彼は一つ舌打ちをしたのち嘲るように笑った。
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