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episode 3
9:25
目を覚ますと時計が目に入った。
ずいぶん長く寝てしまったようで、当然だが隣に理人の姿はなかった。
あくびをして体を伸ばすとゆっくりとベッドから起き上がりドアを開ける。
トーストされたパンとコーヒーのいい香りが漂う。
キッチンで朝食の用意をしている理人に声を掛けた。
「理人さん」
振り向いた理人がすぐに笑顔になる。
「おはよう、龍也。体調は大丈夫?」
「おはよう、理人さん。うん、大丈夫です」
昨夜初めてお酒を飲んだけれど、ゆっくり飲んだおかげか頭痛や二日酔いは感じられなかった。
「良かった。もう出来るから、座って待ってて」
そう言うと作り終えた食事をすぐにリビングへ並べてくれる。
今日も彩り豊かな美味しそうな品が並んでいる。
ふわふわなオムレツをスプーンですくっていると理人から声がかかる。
「午後は誕生日プレゼントを買いに行こうか。龍也、何か欲しいものある?」
「プレゼント・・・」
欲しいもの、と言われても物欲がほとんどない龍也は困ってしまう。
何がいいだろうかと考えていると、ふとテーブルの上にある理人の時計が目に付いた。
「あ。俺、時計がいいです」
時計なら仕事中にもつけていられる。
「わかった。じゃあ俺のと同じところで買おう」
はい、と返事をしたものの【同じところで】という言葉が引っかかった。
理人がいつもつけている時計はきっとブランド品で、安いものではないはずだ。
「あ、えっと、理人さんのと同じブランドじゃなくても・・・」
そう言うが、その言葉の意図を察した理人が即答する。
「ダメ。俺が龍也と一緒のやつがいいから」
意外と頑固なこの人はこうなるともう何を言っても聞いてくれない。
「あ・・・はい」
困ったような笑顔で頷く。
せめて金額が低いものを選ぼうと思ったが、多分そう考えていることもバレている気がした。
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