ラピスラズリの大地

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「漣、私をあなたの神様にされては困るわ」  10倍の大きさにした氷の金槌で、相撲レスラーに殴られたぐらいの衝撃を心に受けた。  僕がリサを神様扱い?  僕が? リサを? 「あなたの恋人への想いの大きさを、そばで見てきたから少しは理解しているつもりよ。90年以上もあなたは当てもなく宇宙を旅して彼女と地球を探し続けている。余程の変態かオタクでない限りそんな芸当できないわ。感心してるの、本当よ。藁にも縋りたくなる気持ちもわかるわ。 だからこそ、あなたには諦めて欲しくないの。あなたには、どうか、ハルと会えるように、私も祈っているの。それは、私自身への祈りよ。地球の場所を、私ももちろん探しているわ。でもまだわからない。わからないの。いつわかるのかも、わからない。 それでも、あなたには、恋人との再会を諦めないでほしい。以前は、あなたに前を向いて欲しいと思って、他の女性と付き合うことを薦めたりもしたけれど、でも今は、ここまできたら、再会してほしいって感じてるの。 勝手なのはわかってるわ。でも、そう思うのよ」 「そんなこと」  諦める? ハルとの再会を?  …僕が?  いつもより優しいリサの言葉に驚いたのか、ようやく脳が完全に目覚め、働き出した思考が自分の心のスキャンを始め、これまでの自分の行動と考えと想いを振り返る。  地球がどこかへ行ってから90年以上、僕は果てのない銀河を旅してきた。それでも地球の場所は、情報の欠片も、糸口さえも見つかっていない。  人間の寿命は有限だ。地球人の寿命はこの銀河の知的生命体の中で比較しても特に短く、歴史を見て延長されてきたと言っても平均として100年余り。僕とリサは道中若返りの星を見つけ、そこで60年ほどの猶予をさらに得た。それでも残された時間はあと30〜40年ぐらいだろう。  この宇宙は、残された時間では足りないぐらい、広い。広すぎる。  ハルと再会できるのか、確証はない。  だから、諦めかけていた?  そう言われて、その想いの欠片を、僕は僕の心の中に見つけてしまった。  その小さな小さな欠片は、見つけたくなかったものだ。存在を、認めたくなんかなかった。一度それを見つけてしまえば、あちらこちらから同じような欠片が出てくるだろう。1匹見つければ300匹いると言われる黒い虫みたいに。  「諦めそうになるのは、構わないと思うわ。寿命の短い地球人だもの。仕方ないわ。でも、そんな自分と、闘わなくちゃ」 「君もあるの? 諦めそうになること」 「もちろんたくさんあるわよ。失礼ね。人を何だと思ってるのかしら。でも諦めたことは、そうね、1つを除いて、ないわね」  その1つを教えてもらう前に、彼女はさっさと立ち上がって宇宙船へ戻ってしまった。ついさっき死にかけた僕を放っていくなんて、大変良い根性をしている。  ゆっくりと立ち上がる。  諦めそうになることを許された僕は、群青の世界で両手を伸ばし、大きく伸びをした。  歩き出す。  きっと僕を待っている、親しみのある青を、探しに。
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