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第一章 恋は甘いか、酸っぱいか?
1・
僕の名前は有村裕。
都内でもそこそこに人気のある、N大学附属小学校に通う十歳の初々しい少年だ。そして今や初めて恋を知り染めて、心が千々に乱れている・・悩める男でもある。
事の起こりは一か月前。
生意気な幼稚園児の妹が、突然にご学友なるシロモノを家に連れて来た。それは妹の花梨が通う聖女学園の幼稚舎の年長組に、この春になって転入してきたばかりの女の子だった。
彼女の名前は、早蕨寿々。妹は親しそうに「ベルちゃん」と呼んでいる。
妹が通う聖女学園は、幼稚舎から大学まで一貫教育で知られたお嬢様学校で。創立百年を数える名門校だ。
余談ながら、母と祖母の母校でもある。
母の華に似て、お節介焼きで社交好きな妹の花梨は、早速にこの目新しいご学友とお近づきになったようだ。
「お兄ちゃん、ベルちゃんはねぇ。ミクロネシアから日本に帰って来たばかりなのよぉ~」
自慢そうに紹介した。
(ミクロネシアが何処にあるかも知らないくせに、生意気な奴だ!)
妹が仕入れてきた情報によると、「ベルちゃん」はお母さんと都内のマンションで二人暮らし。今までは。リタイアしてミクロネシアに移住したお母さんの両親と一緒に、四人で暮らしていたが。就学年齢が近づいたので母親と二人だけで日本に帰って来たらしい。
どうやらお母さんはシングルマザー。職業は小説家だ。
華が夢中になって読んでいるあの恋愛小説を書いたのが、ベルちゃんのお母さんらしくって。華のヤツは図々しくも、さっそくサインを強請っていた。(まったく恥ずかしい母親だ)
つまりベストセラー作家の「瑠偉」が、ベルちゃんのお母さんと言う訳だ。
(あのベストセラー作家がベルちゃんのお母さんかぁ。チョットだけ盗み読みした限りでは、すっごくエロいシーンが満載で。本は直ぐに華に奪い取られたっけ)
だから僕はてっきり、瑠偉は男の作家だと思っていた。(急いで認識を修正だ)
とにかくベルちゃんは、色白で可愛らしい六歳児。妹なんかとは比べようも無い美少女だった。
肩の上で切り揃えた髪がサラッと揺れ、長いまつ毛に縁どられた黒目がちの大きな瞳で僕を見つめて可愛らしい声で挨拶をする少女に、一目で心を奪われたのだ。
一目逢ったその日から・・僕はベルちゃんに夢中。恋をしているのだが、なかなか想いは届かない。
辛い日々が続いている。
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