第一話  叔父さんの恋

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 「ヘッ!華につくような物好きな悪い虫なんかいるモノか。靜恵(しずえ)お祖母さまとは品が違うわぃ」、僕は心の中でそんな叔父さんに舌を出してやった。  祖母は見るからに上品で物静かな女性だ。思慮深く、それでいてしっかりと自分を持っている・・しかも、もうすぐ七十歳とも思えぬ美人。僕の憧れの女性(ひと)だ。  どうやってあの粗忽な彦助爺ぃが彼女をゲットしたかは知らないが、これはもう奇跡としか言いようがない。  そうなのだ!黒田家の男どもは揃って知能指数が高い上に、唯我独尊。そして粗忽で尊大な奴らばかりなのである。  明治時代にご先祖様が資産家の基礎を築きあげ、今では黒田グループと呼ばれる複合企業体に成長した黒田家。数多くの会社をその傘下に収めて、日々躍進中である。  その意味では大樹叔父さんはやり手の実業家だ。ご先祖様から受けいだ使い切れないほどの資産をコレでもかとばかりに、日々せっせと増やし続けているのだ。  だが僕も、悪魔の双子には負けないものを持っている。これでも僕は麗しい容姿を持って生まれてきた美少年。学校の人気ランキングでもトップを独走中だ。  全ては靜恵お婆さまのお陰。  華は知能指数では大樹叔父さんの足元にも及ばないお馬鹿さんだが、お婆さま譲りの美貌の持ち主。僕の父もそれなりのイケメンだから、僕も容姿には自信がある。(残念ながら、妹の花梨は全てにおいて華ソックリ)  そして悪魔の双子は・・悪いが、大樹叔父さんと彦助爺ぃの融合体。シッカリした骨格とソコソコに整った顔だちだが、その分野では僕の圧勝だ。  美少年コンテストなら絶対に僕の勝ちだろう。大人になっても、そこは変わらないと自負している。  ソコを思い出して、ちょっと自信を取り戻した。  そこで僕は、ゴールデンウイークのある日。ファラ教授が開催している天才児教室の実体調査の為に、黒田家を訪問した。本当のところはお茶に招かれた華と花梨の横で、蓮と湊が現れるのを待っていただけだったのだが。  土曜日の気怠い昼下がり。  悪魔の双子は、中学校のサッカー部の練習から帰って来た。  「お腹が空いたなぁ、ユキさん。何かつくってくれよぉ」、まず蓮が玄関で叫ぶ声が響く。実行力と判断力に溢れた悪魔の片割れのご帰還だ。  「うん、僕はホットサンドが良いな」  同じ声ながら幾らか優しい湊の声が響く。観察眼と思慮深さに恵まれた、策謀家の悪魔も帰還したようだ。  ユキさんというのは、黒田家の良くできた家政婦さんの名前である。悪魔の双子が生まれる前から黒田家にいるしっかり者で、家の誰もカノジョには逆らえない。  「ハイハイ、先ずはシャワーを浴びてお召しかえ下さいませ。せっかく掃除した玄関が台無しです」  笑いながら、双子に命令している声が重なった。  その日の双子は、超ご機嫌だった。
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